日本国憲法
前 文 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものてあつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。 第1章 天 皇 第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。 第2条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。 第3条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。 第4条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。 第5条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。 第6条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。 第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。 第8条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。 第2章 戦争の放棄 第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 第3章 国民の権利及び義務 第 10 条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。 第 11 条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。 第 12 条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。 第 13 条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 第 14 条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。 第 15 条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。 第 16 条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。 第 17 条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。 第 18 条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。 第 19 条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。 第 20 条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。 第 21 条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。 第 22 条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。 第 23 条 学問の自由は、これを保障する。 第 24 条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。 第 25 条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 第 26 条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。 2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。 第 27 条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。 第 28 条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。 第 29 条 財産権は、これを侵してはならない。 第 30 条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。 第 31 条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。 第 32 条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。 第 33 条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。 第 34 条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。 第 35 条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第 33 条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。 第 36 条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。 第 37 条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。 第 38 条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。 第 39 条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。 第 40 条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。 第4章 国 会 第 41 条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。 第 42 条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。 第 43 条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。 第 44 条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。 第 45 条 衆議院議員の任期は、4年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。 第 46 条 参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する。 第 47 条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。 第 48 条 何人も、同時に両議院の議員たることはできない。 第 49 条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。 第 50 条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。 第 51 条 両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。 第 52 条 国会の常会は、毎年一回これを召集する。 第 53 条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。 第 54 条 衆議院が解散されたときは、解散の日から 40 日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から 30 日以内に、国会を召集しなければならない。 第 55 条 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。 第 56 条 両議院は、各々その総議員の3分の1以上の出席がなければ、議事を開き、議決することができない。 第 57 条 両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の3分の2以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。 第 58 条 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。 第 59 条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。 第 60 条 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。 第 61 条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第2項の規定を準用する。 第 62 条 両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。 第 63 条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。 第 64 条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。 第5章 内 閣 第 65 条 行政権は、内閣に属する。 第 66 条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。 第 67 条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。 第 68 条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。 第 69 条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、 10 日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。 第 70 条 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。 第 71 条 前2条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。 第 72 条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。 第 73 条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。 第 74 条 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。 第 75 条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。 第6章 司 法 第 76 条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。 第 77 条 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。 第 78 条 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。 第 79 条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。 第 80 条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を 10 年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。 第 81 条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。 第 82 条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。 第7章 財 政 第 83 条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。 第 84 条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。 第 85 条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。 第 86 条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。 第 87 条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。 第 88 条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。 第 89 条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。 第 90 条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。 第 91 条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。 第8章 地方自治 第 92 条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。 第 93 条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。 第 94 条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。 第 95 条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。 第9章 改 正 第 96 条 この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。 第 10 章 最高法規 第 97 条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。 第 98 条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。 第 99 条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。 第 11 章 補 則 第 100 条 この憲法は、公布の日から起算して6箇月を経過した日から、これを施行する。 第 101 条 この憲法施行の際、参議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまての間、衆議院は、国会としての権限を行ふ。 第 102 条 この憲法による第一期の参議院議員のうち、その半数の者の任期は、これを3年とする。その議員は、法律の定めるところにより、これを定める。 第 103 条 この憲法施行の際現に在職する国務大臣、衆議院議員及び裁判官並びにその他の公務員で、その地位に相応する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、当然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選挙又は任命されたときは、当然その地位を失ふ。 |